純ジャパ文系エンジニアが語る海外で1XXX万円稼ぐ英語術
追記:私はいわゆる「純ジャパ」の「文系エンジニア」だが、どちらの言葉もあまり好きではない。タイトルはこれらの言葉の普及を皮肉ったものだ。
エンジニアを狙った悪質な情報商材が増えているようだ。皆様にも用心していただきたい。
はじめに
日本人は英語ができないとよく言われるが、本当だろうか。ヨーロッパで数年勤めた今、残念ながらこれは事実として認めざるを得ない。度々挙がる「TOEIC900点論争」などを見ても明らかなように、海外で要求される語学力は国内での一般的な理解と乖離している。経済的競争力があった親世代の駐在員とは違い、我々の多くは現地の従業員と対等な立場で仕事をすることになる。
高い人事評価を得るには、仕事の対象を個人<チーム<チーム横断<組織全体<業界全体というように拡大していく必要があり、これには高度な言語能力が不可欠である。20代に技術一本で海外を渡り歩いたが、気づけばキャリアの選択肢がないというシナリオもあり得る。マネジメントを視野に入れるのであれば尚更で、優秀な人ほど語学力が原因で安く買い叩かれるリスクに慎重であるべきだ。
これから海外で就職する日本人は増えていくと思うが、やはり大人になってから語学を身につけるには工夫がいる。日本人の英語能力が有意に低いのであれば、言語の差異に何かしらのヒントがあり、そこに着目して学習するべきだというのが私のスタンスだ。この理由で、私は成人がイマージョン教育(英語で英語を勉強すること)に頼りすぎることに懐疑的である。
ここでは、日本で大学を出た直後と現在の筆者の英語理解を比較し、中級レベル以上の英語学習者に短期間で効果が出そうな事項をまとめてみた。
発音
早い段階で発音記号を覚えることを推奨する。例えば、LondonはIPA(国際音声記号)でlʌ́ndənと表記され、これが読めれば2つのOの音のどちらもが日本語のオの音から程遠いことが分かる。強いてカタカナで表現すると「ランドゥン」のような発音だ。記号の数は限られていて、見た目から推測可能なものも多いので、次のような動画を見て暗記してしまおう。
母音はとʌとæ、子音はsとʃの区別が特に難しいのではないだろうか。コツは、前後の音によっては識別が簡単なので、そこから徐々に感覚を掴んでいくことだ。例えば、fun |fʌn|とfan |fæn|は難しいが、cut |kʌt|とcat |kæt|の区別ができない人はあまりいないだろう。同じく、see |siː|とshe |ʃiː|は厄介だが、same |seɪm|とshame |ʃeɪm|は簡単だ。ちなみに、このような単一の音の差によって別の語になるような組み合わせをMinimal pairという。
日本人を悩ますRの音だが、これはとにかく舌を持ち上げても舌先はどこにもつけないということを徹底する。一方でLは、日本語の「らりるれろ」よりしっかりと舌を前歯の裏側につけシャープに発音する。
また、IPAには口の形と舌の前後の位置で母音を分類したチャートがある。IT エンジニアのための英語講座 04という動画では、この表に日本語の母音をマップしたものを見ることができるが、自分の概念に無い音を認識するのに有効な手段だろう。
注意点として、IPAの記号セットには複数のバリエーションがあるので辞書によって表記が異なる。いくつかの語を引いてみて、常用の辞書がどのセットの記号を使っているのか確認しておこう。
品詞
副詞、形容詞、前置詞、不定詞などの区分が曖昧な人がいる。“look forward to 動詞原型"のような典型的な間違いは、ここでのtoが不定詞ではなく前置詞であることを理解していれば避けることができる。
この中では副詞がもっとも自由度が高く、それだけに使いこなすのが難しい。例えば、直感的ではないものの、副詞は前置詞の目的語になることができる。“until recently(最近まで)“などはその例だ。また、副詞は別の副詞を修飾できるので"The birds are flying high up in the sky.(鳥が空高く飛んでいる)“というような表現も可能だ。このように「微妙なニュアンスが副詞として差し込まれている」のを見ると、英語らしい文章だと思う。
不定詞
不定詞は英語特有の概念である。例えばTo Do/Doing/Doneというような分類は誰でもするが、どうして”To Do"なのだろうか。Toは一般に未来を志向している。これが分かると、日本人があまり使わなさそうな"be to"の表現も理解できる。
- We have to understand the nature of the virus, if we are to overcome it.(直訳:もしそれを克服するつもりであれば、我々はこのウイルスの性質について理解する必要がある。)
この考え方は、不定詞と動名詞の両方を目的語にとり、それぞれで意味が異なる動詞を理解するのにも役立つ。以下の例を見れば、不定詞が未来の動作を、動名詞が既に行われた動作を表す感覚がつかめるだろう。
- Stop to do(〜するために立ち止まる)
- Stop doing(〜するのをやめる)
- Remember to do(忘れずに〜する)
- Remember doing(〜したのを覚えている)
ちなみに、不定詞の完了形である完了不定詞というものも存在し、これは不定詞が述語動詞よりも過去の時点を示す場合に利用する。例えば以下の文では、過去の出来事に対して現在侘びているので、完了不定詞を使うことになる。
- I’m sorry not to have answered you sooner.(もっと早くにご返事を差し上げることができなくて申し訳ありません)
動詞
日本語の概念に無い第4文型(SVOO)と第5文型(SVOC)の動詞に弱い傾向がある。“Give a book to him"と"Give him a book"はどちらも正しい表現だが、日本語的な前者ばかりを使っていないだろうか。頻出表現である"Do me a favor"や"Wish you luck"なども、意外とすんなり出てこないものだ。さらに、これに再帰代名詞が組み合わせれた以下のような会話表現ができると大したものだろう。
- I’ll go get myself a coffee.(コーヒーを入れてきます)
自動詞と他動詞には日本語の感覚と乖離が大きいものがあるので注意する。基本的な動詞であるleave、reach、search、enter、discussなどは自動詞的な動作を表すが、実際は全て他動詞であり直接に目的語を取る。
- Leave home (✗ Leave from home)
- Reach the end (✗ Reach to the end)
- Search the Internet for the term (✗ Search the term on the Internet)
意味上の主語
主体を明確にしない言語を操る日本人は、複数の主体が登場する英文の扱いが苦手だ。複数の主語というと、ifやthat節を用いた複文を真っ先に思いつくと思うが、実際はこれ以外にも様々な方法で意味上の主語を表現することができる。文法理解や語彙力の割に文章が続かないという人は、以下の項目を見直すことで表現力を改善できるかもしれない。
動名詞の主語
以下の例では、ifを用いて副詞節を形成することで2つの主語(youとI)を表現している。
- Do you mind if I smoke?(直訳:私がタバコを吸ったら、あなたは迷惑に思いますか。)
しかし、実は以下のどちらも正しい英語の文章である。
- Do you mind my smoking.(所有格+動名詞)
- Do you mind me smoking.(目的格+動名詞)
このような言い換えができると、目的語を先に言ってしまっても文章を続けることができる。
- I don’t like it/its being too small.(それが小さすぎて気に食わない)
名詞の主語
動詞や形容詞を名詞化することで、不恰好な複文を避けることができる。
- He is a good engineer because he is familar with the latest technology.
- His familiarity with the latest technology makes him a good engineer.
名詞に対しofを用いて、その主体を表すこともできる。ofの機能は多岐に渡るが、その中でも主格と目的格という逆方向のベクトルの関係性を表現するという気付きは重要である。
- 主格: The existence of ghosts. (Ghost exists)
- 目的格: The owner of the house. (Someone owns the house)
不定詞の主語
不定詞の意味上の主語はforを用いて表す。“There is"の構文と組み合わされた後者のような例を使いこなせるだろうか。
- Is it rude for me to say that?
- It is impossible for there to be any animal on this planet.
ちなみに、以下のように意味上の主語自体が形容詞の性質を持つ場合はofが使われる。
- It’s kind of you to say so. (You are kind)
助動詞
will/would・can/could・may/mightなどの使い分け以前に、助動詞を用いた表現での過去時制を理解していないケースがある。例えば、mightはmayの過去形で「〜したかもしれない」という意味になると誤解していないだろうか。時制の一致が適用される場合を除いて、助動詞+have+過去分詞としなければならない。
- I might have missed it.(それを見逃してしまったかもしれない)
mustやshouldに関しても同様である。
- It must have been good.(それは良かったに違いない)
- I should have done that.(そうしておくべきだった)
非制限用法のwho/which
学校教育での扱いと、実際の重要さの間にギャップがある文法事項の一つだ。
非制限用法を説明する前に、制限用法について確認しておこう。制限用法は、その名の通り先行詞を特定のものに限定する。
- Any child who is over six must go to the school.(6歳を過ぎた子供は学校に行かなければならない)
ここでは「子供一般」を「6歳を過ぎた子供」に制限している。一方で、非制限用法はコンマを伴い、先行詞を補足するのみである。次の例では「唯一」である自分の妻について補足的な説明をしているのであり、複数人の"My wife"のうちの一人について述べている訳ではない。
- My wife, who is currently away, will be back tomorrow.(私の妻は現在出払っていますが明日戻ってきます)
また、非制限用法のwhichは先行詞に節を受けることができる。
- I had to work for 12 hours yesterday, which was painful.(昨日は12時間働かなければならず辛かった)
これは会話でもよく使われる。ひとしきり喋ったあとに一呼吸おいて”, which is good.“などというような感じで自分の感想を補足するような話し方をする人が多い。
特殊構文
大学受験時点でこれらが定着しているのは、かなり真面目に勉強した人だけだろう。頻度は高くないが、知らないと一文まるまる理解不能となるので、最低限存在を頭に入れておこう。
挿入
ビル・ゲイツを取材したドキュメンタリー"Inside Bill’s Brain"の中で、彼の妻が以下のように語るシーンがある。
- Bill had said some things that I think Paul felt were inaccurate and mean.
なかなか自然な日本語にするのが難しいが「ビルは私が思うところポールが不正確で意地悪だと感じていることを言った」という意味になる。元の文は"Bill had said some things that were inaccurate and mean"だが、“Paul felt"の挿入によって「that節はポールの感想である」ということが示される。さらに、そのポールの感情も話者の私見なので"I think"が加えて挿入される。
倒置
自分で書ける必要はないが、固めの読み物・メールでは珍しくないので読めるようにしておこう。
- Should you (= If you should) have any questions, please do not hesitate to contact me. (ご質問がございましたら遠慮なくご連絡ください)
- Seldom do we (= We seldome) hear such fine singing.(このような見事な歌をめったに耳にすることはない)
前者では仮定のifの省略によって、後者では否定の強調によって倒置が起きている。後者のように、否定語を伴わない否定の意味を持った副詞が倒置を招くケースには注意が必要だ。
省略
副詞節で主語とbe動詞が省略されることがある。以下のような表現は技術系の文章でよく見かける。
- When (it is) installed, it will add Downloads icon to your browser’s toolbar.(インストールされると、ダウンロードアイコンがブラウザのツールバーに追加されます)
おわりに
学校教育で見落とされがちだが、中級から上級の学習者に移行するために重要な項目を、我ながら上手くまとめられたのではないだろうか。時制・使役・as・仮定法・分詞構文なども扱う予定だったが、既にそこそこの分量になってしまったので、一旦ここまでとする。
ちなみに、冠詞・加算/不可算名詞・群動詞(give in「受け入れる」のような動詞と前置詞の組み合わせ)はかなり奥が深く、基本中の基本を除いて、座学でマスターするのは難しいと思っている。これらは、無理せずに経験を通じて学習すればよいだろう。
最後に、ここでの内容の多くは筆者が最も信頼を置いている文法書『英文法解説』(著:江川泰一郎)を参考にしている。興味のある人はそちらも参照してみてほしい。