Sennheiser Momentum True Wireless


Momentum True Wireless(以下、単にMomentumとする。)は、今年のIFA(国際コンシューマ・エレクトロニクス展)でSennheiserが発表した完全独立型のワイヤレスイヤホンである。

https://en-us.sennheiser.com/momentum-truewireless

https://en-us.sennheiser.com/momentum-truewireless

ヨーロッパでは11月の下旬に発売が開始されたが、日本での発売は12月20日と、まだ先だ。イギリスに住んでおり、一足早く手に入れることができたので、レビューしてみる。ちなみに前もって断わりをいれておくと、

  • 筆者に音響の専門的な知識はない
  • 長年細々と演奏・作曲をやっているので、様々な楽器の同定は得意
  • MP3は192kbps以上であれば音源に問題を感じない
  • まともなネットワーク環境の下、iPhone上でストリーミング再生することが前提
  • 完全独立型は今回がはじめて

ちなみに、この1年愛用していたSony WI-1000Xを比較対象とする。

https://www.sony.co.uk/electronics/in-ear-headphones/wi-1000x

https://www.sony.co.uk/electronics/in-ear-headphones/wi-1000x

1年前のちょうど同じ時期にも完全独立型のイヤホンを検討したが、確かBoseのSoundSport Freeを視聴して、あまりに音質が悪かったため、完全独立型は時期尚早との結論を下したのだった。しかし、この一年で完全独立型の進歩は目覚ましい。このMomentumも含め、Master&DynamicのMW07など、完全独立型かつ高音質なモデルがちらほら登場し始めた。このMomentumは完全独立型の技術のピークに当分なると予想し購入に踏み切った。

音質

普段聴いている曲の中から、異なる楽器編成のものをいくつかピックアップして聴いてみる。

Donald Fagen - I.G.Y. (What a Beautiful World)

今でもそうなのかは知らないが、PAエンジニアのサウンドチェックによく使われるというDonald Fagenの『The Nightfly』。その中から、1曲目”I.G.Y. (What a Beautiful World)“を聴いてみる。

参考にYoutubeのリンクを掲載するが、実際はiPhone上のSpotifyで楽曲を再生している。楽曲のフォーマットはOgg Vorbisの160kbps。

冒頭のシンセサイザー、シーケンサー、金物はもちろん、リズムインからのベース、中央やや左寄りのギターのカッティングなどもクリアに聴こえる。特に22-24秒あたりのベースのスタッカートはニュアンスも含め、キレイに聴き取れる。もちろんこれはAnthony Jacksonだが、楽曲の解説をしても意味はないので、深入りしない。

分解能などに大きな差はないような気がするが、WI-1000Xはドンシャリ傾向なのか、バスドラムとギターのカッティングがかなり耳に付く。一方、Momentumは比較するとかなり丸い音に感じる。WI-1000Xのほうが聴いていて楽しい気もするが、いわゆる聴き疲れしそうな音でもあるので、ここは完全に好みの差と言ってもいいだろう。

Take 6 - I Believe

ポップスの編成に関しては表現力に問題がなさそうなので、次はボーカル。アカペラが参考になると思い、Take 6の”I Believe”を採用。

この曲のベースラインはジャズアカペラ史上最高なのではないかと思っているのだが、そのベースの迫力を損なうこと無く再生している。冒頭の、予期せずマイクに乗っているであろう唇の破裂音もしっかりと聴こえる。

ちなみに、iPhoneから出力が同じ場合、MomentumのほうがWI-1000X比べてやや音量が大きめに聴こえる気がするが、これは実際に出力音圧レベルが違うためである。

  • Momentum: 107 dB SPL
  • WI-1000X: 101 dB SPL

とはいっても、WI-1000Xの音量に特に問題があるわけではなく、どちらも音量が小さいと感じることはない。

Jim Beared - Holiday for Pete & Gladys

今度はオーケストラ編成のものを聴いてみる。Jim BeardMetropole Orchestraと録音した『Revolutions』から”Holiday for Pete & Gladys”を聴いてみた。Jim Beardはその作曲能力を考えると、Pat Methenyと肩を並べても良いくらいに思うのだが、あまり知名度が高くないので残念だ。

ここで初めて、明らかにMomentumがWI-1000Xに劣るように感じた。WI-1000Xは、冒頭のトランペットのアタックとそれに続く弦の響きを豪華に鳴らすのだが、Momentumではそこまでのインパクトを感じなかった。

ダイナミック型ドライバ

WI-1000Xをはじめ、近年多くのモデルが、低域用にダイナミック型ドライバ、高域用にバランスド・アーマチュア(BA)型のドライバを用いるハイブリッド構成を採用している。

WI-1000Xのドライバ構成。

WI-1000Xのドライバ構成。

これは、ダイナミック型ドライバが、その性質上、高域に弱いため、それをBA型で補っているという事情がある。一方で、Sennheiserは長らくダイナミック型ドライバ単体の採用にこだわり続けていて、このMomentumもそうである。Sennheiserによれば

Because of their limited range, balanced armature drivers have to ‘dissect’ the sound pattern and put it together from several sections. The handover points in particular are prone to crossover effects and other acoustic artifacts.

Sennheiser’s new broadband transducer, however, reproduces the sound as an organic whole and delivers a natural, warm overall effect. Above all, the sound can be felt, as substantially more air passes throughout the inner ear.

複数のドライバが干渉し、人工的な音響を生みやすいBA型と異なり、ダイナミックドライバ単体ではより有機的で暖かい音が実現できる、とのことである。

ハイブリッド型とダイナミック型単体の比較

ハイブリッド型とダイナミック型単体の比較

音響技術に詳しくない自分でも、Momentum(ダイナミック)とWI-1000X(ハイブリッド)の差は、まさにここで説明されている通りのように感じる。Momentumは確かに高音の繊細さには欠けるような気がするが、一方で空気感と広がりがあり、より音楽的だ。聴き疲れしない自然な音は、このダイナミック型ドライバの特性から来ているのであろう。

まとめると次のようになる。

  • 完全独立型としては申し分ない音質
  • 豊かな中低音
  • 高域のきらびやかさはやや物足りない
  • ハイブリッド型と比較すると多少こもった感じもするが、聴き疲れしない自然なサウンド

1週間ほど聴いてみて、今ではMomentumのサウンドのほうが気に入っている。

接続性

ケースから取り出すと瞬時に接続する。かなり素早く耳に入れてはじめて接続と同時になるくらいである。安定性もよく、1週間ほど使った限りでは今のところ目立ったドロップは無い。

操作性

これは賛否両論あると思われる。タッチパネル式のためクリック感が耳奥に響かないのは良いのだが、判定が結構シビアだ。シングルタップの操作(左は再生/停止、右は音声アシスタント呼び出し)は問題がないが、ダブルタップ(左は曲送り、右は外部音取り込み)の操作は結構な頻度で失敗する。左のトリプルタップでの曲戻しとなると、ほとんど成功しない。今後のソフトウェアのアップデートでタップ間隔の調整ができるようになると良いかもしれない。

デザイン

これが、WI-1000Xという十分なクオリティの機種を持ちながらもMomentumを購入した最大の理由である。

首掛けというのは考えてみると随分と中途半端なデザインだ。例えば、全く運動には適していない。ランニングや仰向けに寝る姿勢が含まれるような運動をすると落ちてしまう。夏場にシャツ一枚とあわせて装着すると存在感がありすぎるし、冬場大きな襟のあるコートを着ると、ネックバンドが邪魔になる。結局、言い方は悪いが「都市部で電車通勤するスーツのおっさん」に最適化されたデザインであって、「いい加減な格好で歩いて会社に行く(まだ若いと思っている)おっさん」にはイケてないデザインに感じられた。

Momentumは一般に大きいと評判だが、個人的には全く気にならない。むしろ、他の製品より優れたデザインだと思う。多くの機種のようにアンテナ部の突起もなく、耳に入れてしまえばわずかに銀色の円盤が耳穴から覗くだけだ。その円状のスッキリとした見た目は機械というよりアクセサリーのような感じもする。

装着感

かなり良い。装着に少しコツがいるが、適切なイヤーピースをつければ、耳に吸い付くようにフィットし、全く落ちそうな感じはしない。大きさの割に軽いので、陳腐な表現だが、着けているを忘れそうになる。

ケース

本体は大きく感じないと言ったが、ケースは結構大きい。そこそこ厚みがあるので、夏場にシャツとタイトなジーンズとかだとやり場に困るかもしれない。

ケースは、他のブランドが軒並みプラスチックのケースを採用している一方で、Momentumのケースは布で覆われている。角も丸みを帯びていて、有機的な印象だ。布に関しては、ポケットから滑り落ちにくい点では良いかもしれないが、傷がついたり汚れたりするとプラスチックよりも厄介だろう。

イヤホンを収納した状態でスイッチを押すとイヤホンのバッテリー状態が、イヤホン無しだとケースのバッテリー状態が、側面のLEDランプで確認できる。

ノイズキャンセリング

WI-1000Xのノイズキャンセリングが取り立てて強いわけではないのでなんとも言えないが、MomentumはWI-1000Xと同等かやや上という感じがする。装着感がかなり良いこともあり、十分に周囲の音を遮断してくれる。外部音の取り込みもできるが、これは前述した通り操作がややトリッキーなため、あまり活用していない。

アプリ

アプリは正直なところ未完成感が否めない。特に接続状態の取得方法が良くない。起動時にしか接続状況が自動で更新されないので、アプリの起動中にイヤホンの接続を中断して再度つなぎ直しても、アプリ側では切断されたままである。自らリトライ操作をしないと最新の接続状況を取得できない。

イコライザもついているが、二次元座標上の点を動かして操作するというインタフェースのメリットがいまいち良くわからない。

とはいえ、ファームウェアのアップデートのための媒介として以外は、特にクリティカルな機能があるわけではないので、アプリの出来がいまいちなのは目をつぶれるだろう。

バッテリー

完全独立型の最大のネックの1つであるバッテリーの持ちはMomentumでも変わらない。連続再生は4時間とあり、実際に使ってみてもそれくらいの時間であった。ケースからは2回のチャージができる。自分の場合、片道20分の通勤と、仕事中に1-2時間程度使用する、というような使い方なので、日常的にはあまり困らない。問題があるとすれば、長距離フライトだろう。例えば、ロンドン‐東京間のフライトは12時間ほどだが、その間に連続4時間以上使用するということは十分あり得る。一旦ケースに戻し、チャージされるまで使用できないというのは結構もどかしい。

この点は、10時間の連続再生ができ、有線での接続にも対応しているWI-1000Xのほうに軍配があがるだろう。ただし、電源の接続がUSB-Cであることは評価できる。

実は、この優れた製品をあまり貶めたくないので冒頭には書かなかったが、バッテリーの初期不良を引いてしまったようで、既に返品している。症状としては、

  • フル充電後にも関わらず、左側のバッテリーが80-85%程度のことが頻繁にある
  • ケースのバッテリー残量が少ないと、イヤホンをケースに戻しても切断しない
  • 本体の再生時間は問題ないが、おそらくケースからの過充電のためか、総再生時間4-5時間でケースのバッテリーが無くなる

ソフトウェアのトラブルにも見えるので、ファームウェアのアップデートを待つこともできたが、いかんせんそこそこ高価なものなので返品することにした。Redditを見ると同様の症状を訴えている人がこことかここなど、ちらほらいる。

やはり工業製品の初期のロットにはこういうトラブルはつきものなのだろうが、いかんせん他の部分が優れているだけに残念だ。しばらく様子を見て、再度購入しようと思っている。

まとめ

(初期不良に当たらない限り)総合的に見て素晴らしい製品だと思う。少し値は張るが、完全独立型の利便性と高い音楽再生能力が両立された数少ない商品であることを考えると、その価値はあるだろう。

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