Steel HR購入
Withings Steel HRを買った。
スマートウォッチには懐疑的だったが、軽い運動を始めるようになってから、もしかすると便利かもしれないと思うようになった。無駄遣いになるかもしれないと躊躇したが、役に立たないと分かれば使わなければ良いだけだ。よほど高価なものでない限り、あるものが自分にとって必要かどうか分かるという経験そのものだけでも十分価値がある。
画一的なApple Watch
スマートウォッチというと真っ先に思い当たるのがApple Watchだ。おそらく技術的には最も進んでいるだろう。何度も購入を検討したが、実物を見るたびにやっぱり何かが許せなかった。
ここ数年のApple製品にはあまり魅力を感じない。iPhoneも未だに7のままだし、5から7に移行したときも単に惰性だった。10万円も払って、購入初日から気分が高揚しない。とはいえ、他のスマートフォンを買おうとも思わない。どの製品も、単色で薄く画面が大きいという点で、多かれ少なかれ同じだ。それに、あまりにも生活に根ざしているため、尖った製品を買うと生活に支障がでる。例えば、Light Phone 2。コンセプトは面白いが、ここまでするには相当勇気がいる。
一方、スマートウォッチはどうだろうか。無くても困らない。活動量計、電子決済、通知。あれば便利だが、生活を変えるほどではない。この点で時計は未だに、スマートフォンよりもファッションに近い。機能だけではなく、それが自分にとって持つ意味も重要だ。それは個性の表出でもある。
節電のため自分が見ていないときは画面が消えるそうだが、自分が見ていないときにも誰かには見られている。常に体に付随しているものである以上、自分の視覚的イメージに与える影響はスマートフォンよりも大きい。
時計で個性を表現しようと思わない人がいるのは十分理解できる。ファッションに無関心なのも結構だ。だが、必需品で無いにもかかわらず、画一的でしかも高価な商品が売れているということには納得がいかない。Apple Watchでなければならない理由がある人もいるだろう。しかし、そういう人がそれほど多いとは思えない。
自分が選択したという感覚
iPhoneの登場以前は、もちろん出来の良し悪しはあったのだが、ある携帯が他のものより圧倒的に優れてはいなかった。最善の選択は自明ではなかった。単なるノスタルジーでしかないのかもしれないが、Nokia N73という携帯を買ったときのことを思い出す。万人に薦められるかは怪しかったが、自分が自分に相応しいものを自分で選択したという深い満足感があった。
Steel HRという選択
このようなことに思いを巡らせて、最終的に行き着いたのがSteel HRだった。液晶画面の時計を最初は検討したのだが、液晶にアナログのメタファーを再現するというのがどうしても許容できなかった。好みという主観的なものに対して強い言葉を使いたくないが、流石にこればかりは醜いとしか言いようがない。
Steel HRは発売されてから2年が経っているが、その後のマイナーチェンジによって、巷の評判よりは良い製品に仕上がっている。結露、サードパーティーの通知非対応などの欠点がよくあげられるが、これらは最新のモデルでは解決している。
本体
高級感がものすごくあるかと言われると微妙だが、少なくとも液晶の時計よりは美しい。インターフェースとしては、竜頭を模した物理ボタンが一個あるのみだが、不便さを感じることはない。ボタンの長押しが有効なコンテキストでは画面右側に三角のマークが出現するのだが、これはシンプルながら直感的だ。
アプリ
他の製品を使ったことがないものからすると、十分よくできていると思う。特にグラフをスクロールに合わせて伸縮させて画面内の情報量を損なわないようにしている点や、グラフ上を横スクロールすることでデータポイントをスクラブできる点が気に入っている。
不満があるとすれば、他の体重計からiPhoneのHealthアプリにインポートされている体重や体脂肪率等のデータにアクセスできないことだ。これは同社製品の体重計を買えということなのだろう。
歩数計
他製品に比べ低く算出されるというレビューをよく見かける。真偽のほどはわからないが、少なくとも通勤のために20分ほど歩くと、20分歩いたという記録がちゃんと残る。
そもそも歩数はあまり気にしていない。活用している人は、思ったより歩いていないことが分かったら散歩にでかけたりするのだろうか。自分はしない。
心拍計
たまに運動しているのに数値が通常時のままということがあるが、これも正確かどうかは知る由もない。異常値の検出には役立つかもしれないが、歩数と同じく、数値に対して日常的にこちらからできるアクションは無い気がする。
睡眠
うたた寝をしたときに計測されなかったことはあるが、入眠/起床は比較的正確にとれている。目覚めの良さと、アプリに表示される睡眠スコアは相関がある。眠気というのは自分のパフォーマンスをかなり左右する。これらのデータは質の高い睡眠のために色々試行錯誤するのに便利だ。
アラーム設定時刻の一定時間前でも、眠りの浅いタイミングで起こしてくれるという機能があって、これも発想が気に入っている。
通知
アプリインストール後、一度通知を受けたアプリからしか通知を転送できないという癖があるが、一度設定してしまえば特に問題はない。自分はかなり詳細に端末側の通知の設定をしていて、一日に来るバナー通知は基本的に10件以下だ。逆に言うと、これらの通知は本当に見逃したくないものなので、時計に通知が来るのは結構嬉しい。特に、電話をとれるようになったのは大きい。
小さな液晶の中をメッセージが流れるので、詳細を確認するのは難しいが、それでも重要度を把握するくらいはできる。
バッテリー
この製品の一番分かりやすい強みだろう。買ってすぐ充電器を試した以降、一度も充電していないのではっきりとした数値は分からないが25日ほど持つらしい。
まとめ
総合的に見て完成度の高い製品だ。
Apple Watch等の多機能な製品であれば、アプリを探したり、盤面をカスタマイズしたり、こまめに充電したりと、どちらかというと生活の複雑度が上がってしまう。一方、Steel HRではこれらのことを気にしなくて良い。初期設定を済ませたあとは、ただただ普通の時計として身につけるだけだ。それ以上にできることはない。
家具であれ、車であれ、なんであれその価値が確立されたものに関して、実に退屈なものを見ることが増えてきた。マーケットリサーチが進んでいるのか、オンラインショッピングによって市場がグローバルになっているからなのか、少数の企業の一人勝ちだからなのか。理由は定かでないが、好きな人だけが買えばいいようなものを作るリスクが大きくなりすぎているような気がする。
Apple Watchを腐したいわけではない。けれども、もっとバリエーション豊かで、奇抜なものが世の中に溢れていてもいいはずだ。もしかするとこの感覚こそが、前時代的で、Appleが変えようとしているものなのかもしれない。だが、少なくともスマートウォッチはAppleが一人勝ちするには早すぎるのではないだろうか。